相続の手続・放棄

認知症の妻のための信託と息子たちへの資産承継したいケース

相談者(76歳)と妻の宇都宮市で二人暮らしです。すでに長男次男は独立、結婚し、同じく宇都宮市内にて生計を立てて暮らしています。
去年、相談者は脳梗塞になり、療養の末、回復したが今後の判断能力の衰えが心配である。すでに、妻(82歳)は軽度の認知症候群で、近所で一軒家を構える長男とその妻が世話をしに時々来てくれている。
財産は、自宅である建物と土地。
近所に雑種地(現状駐車場として貸出中)を保有。
預金は2500万円。
夫婦とも認知症になった時のことが心配で、できる限りは二人で自宅に住みたい希望があるが、必要であれば、自宅や雑種地を売って施設の入居費用等に充てたい。また日々の生活の世話や支払いなどもだれかにしてほしい。
上記のケースで懸念されるのは、二人とも認知症になってしまうことです。

認知症候群になると、法律上、自分で意思決定できないという扱いになってしまうため、契約能力が否定されてしまいます。そのために認知症になってしまうと、自身の日常生活や日々の生活のための財産管理が難しくなり支障が出てしまいます。また場合によっては銀行から預金口座が凍結されてしまい、生活費の捻出が出来なくなっしまったり、親の施設入居費用捻出のために、認症の親が所有の自宅不動産や遊休資産を売却することは通常できません。

法定後見人が選任されれば、理由により裁判所の許可でできることもありますが、法定後見人に親族でなく司法書士や弁護士などの専門家後見人が就任することもあります。その場合、被後見人の財産を守るという観点から、スピーディーな管理処分の実行が難しいのが現状です。

家族が法定後見人に選任されても、自宅の売却には家庭裁判所の許可が必要となります。

では、今すぐ売却したほうがいいのでしょうか。ですが、そうはいきません。自宅は現に住んでいる不動産のため、認知症になる前に売却することはできませんし、遊休資産である雑種地も、適切な売却タイミングの時に売却したほうが、利益につながります。

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このケースの場合、信託契約と任意後見契約を検討することが可能です。
「信託契約」
不動産すべてと預金の一部を信託財産として、委託者兼受益者を父、受託者を長男として信託契約します。長男は、信託契約後に財産管理をし、父や母の生活費や施設入居捻出のために自宅を売却することが可能です。当初受益者は父にし、父が亡くなった後は、母が後継の受益者として、認知症の母親の生活のために信託財産が運用されます。後継受益者が亡くなった時を終了原因として信託を終了させ、残余財産を長男と次男へ相続させることが可能です。
「任意後見契約」
次に次男は任意後見人として、父の判断能力がなくなったら父に代わって、信託に含めなかった若しくは含められない財産を管理し、父の身上監護に関する世話もします。

次男が任意後見人として、父と母と任意後見契約をすることで、認知症になった後でも父と母の身上監護をすることができます。任意後見契約がなぜ必要かというと、信託はあくまで財産管理契約であって、本人の身上監護について契約できませんし、信託財産でない資産については関与することはできません。

例えば毎月入っている年金は信託財産に法律上組み込めませんし、保有する上場株式の信託もできないことが多く信託に組み込めません。そいった信託に組み込めない財産やご本人が信託としたくない財産の管理については、任意後見人が身上監護とともに財産管理していくことになります。

このように信託契約や任意後見契約を併用することもできます。また信託に組み込めなかった財産は通常の相続になりますので、遺言書を別途書く必要がある場合があります。

直系卑属に資産承継をさせるための信託および認知症対策しての信託をするケース

相談者(70歳)は息子である長男夫婦と宇都宮市で3人暮らしです。相談者の妻はすでに他界しており、長男夫婦の子供は独立し、壬生町で生計を立てている。相談者は代々の地主の家系でアパートやビル等不動産を多数所有する保有している。相談者の思いとしては、息子の妻が死ぬまでは、この自宅に住まわせて、生活の支援はしてあげたいが不動産の名義は孫になるようにしたい。相談者としては、息子にすべてを相続させたいが、息子が亡くなった後、息子の財産の半分はその妻に渡ってしまう可能性があるため、できれば直系卑属、血族に財産を承継させたいという思いがある。また、相談者も高齢になり、不動産の管理を息子に任せたい。

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上記のケースでは、遺言書では対応できません。

そこで信託という方法があります。

信託における資産承継の性質の側面を使用することで、希望を叶えることは可能です。委託者兼受益者を相談者として、受託者(長男の子供、つまり相談者にとっての孫)にすべてもしくは一部の財産を信託財産として管理処分を任せます。当初受益者の亡き後は、受益者(第2受益者)を長男、長男亡き後の受益者(第3受益者)を長男の妻や孫を指定します。

この時、長男の妻の受益権の内容を、現在住んでいる自宅に居住する権利のみに限定することも可能です。そして、長男の嫁の死亡などを信託の終了原因として、すべての残余財産先を孫とすれば、長男の嫁が最期まで自宅に居住できるようにしておきながら、長男の妻が死亡した後には、直系卑属である孫に不動産が承継されるような仕組みを作ることができます。このように信託は、遺言では対応できない承継方法について実行することが可能です。しかし、各相続人の遺留分減殺額請求権は消滅しないため、侵害とならない程度の額を渡す形になるような設計にする必要があります。上記の事例で、すべての財産を信託財産として、

その後、父について相続が発生した時、長男以外に二男がいた場合は、長男は二男より遺留分を請求される恐れがあります。そうした遺留分のケアをしないと、相談者亡き後、相続・遺贈を受けた人が訴訟などの紛争に巻き込まれる事態になるかもしれませんので注意が必要です。

受託者を誰にするべきか。そして信託監督人の設置について。

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家族のための「信託」とは、自分の持っている不動産・預貯金などの資産を信頼できる家族その他の信頼できる人に信託する財産を託して、その管理や処分を任せる財産管理契約です。そして、財産を託す人が「委託者」と呼び、託される人が「受託者」と呼ばれます。信託された財産から利益を受ける人が「受益者」と呼ばれます。そして、信託契約に基づいた管理処分について、同意権などを与えられた人を「信託監督人」といいます。今回はその中の「受託者」と「信託監督人」についてお話しします。

「受託者について」
信託は、財産(自宅などの不動産や預金など)を持っている人が、自らに認知症等の事態が生じる前に、財産の管理を信頼できる家族や友人、つまり「受託者」に託する契約ですが、受託者というのを誰にやってもらうのかというのがとても重要で信託契約の根幹です。委託者亡きあと、委託者の思いに沿った信託事務ができるかが重要になってきます。そして人として信頼できていても、財産管理について適切に実施できるかはまた別の話しになります。よって、受託者候補になり得そうな人がいたとしても、その役割を担う能力を育てることも必要です。特に信託期間は長期に及ぶことが多く、自らの築いた財産をしっかりと引き継いでもらいたい場合、その財産を管理してくれる家族などを育てていくという視点も重要です。

「信託監督人について」
受託者を文字通り監督する立場で、重要な財産の処分などについて同意権が与えられるなど、信託契約において重要な関係人です。この信託監督人は専門家であることが推奨されていますが、身近に、受託者をしっかり監督できる家族がいればその方が信託監督人になって監督することは十分可能です。ただし、信託監督人は誰でもいいかというとそうではありません。信託監督人の定めとしてふさわしくない関係の人は、専任するべきではありません。
例えば、受託者を長男、信託監督人を長男の妻とするという契約です。妻が夫の信託事務を監督することは難しいことは容易に想像できます。十分な監督が期待できません。また、信託監督人を選任する権限を受託者に与える内容の信託契約も不適当です。受託者を監督する立場にある人間を受託者が選任する場合、自分に甘い人間、協力してくれる人を選任してしまいます。やはり家族同士で監督というのは、やはり、甘さがでてくるものです。弊所では、利益が共同関係にある者同時が受託者と信託関係人になる信託契約はお勧めしません。信託監督人を置くことに意味がないためです。
誰を受託者として、信託監督人になるか。受益者代理人は置くか。任意後見人も置いた方がいいか。それぞれの関係性が立場を考慮しながら、設計する必要があります。場合によっては、司法書士が信託監督人として、受託者を監督する契約内容にすることも可能です。以上のように、信託契約の内容が実行される根幹は信託に携わる者を誰にするかがとても重要になります。

相続税対策としての信託契約の活用について

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信託契約を使って110万円以下で毎年贈与を実行している契約があるようですが、こちらが暦年贈与扱いとして必ず非課税になるかは疑問です。歴年贈与による相続財産の取り崩しで相続税を抑えたい目的でしょう。もちろん、委託者兼受益者である依頼主が、認知なく意思能力があれば、受益者の立場で、毎年、額や渡す時期を決定し、子や孫に暦年贈与することは可能です。問題となるのは、認知症になった後も信託内給付として、暦年贈与するという内容です。信託行為に「子や孫に各110万円を毎年帰属者として給付する」「毎年、110万円を限度として給付する」と定めた場合は信託設定時信託期間に乗じた総額が贈与されたとして一括課税されると考えられています。つまり暦年課税の非課税の特例の適用を税務署から否定される可能性があります。一括課税を避けるための信託内給付の定め方も一部提案されていますが、そもそも信託法は信託契約を節税対策として活用を予定されているものではありません。家族のための民事信託契約は、相続人予定者に財産の処分権限を与えて、認知症などになった時の財産の凍結を避け、財産を認知症になった本人やその家族のために活用し、さらには納税準備資金の調達をするために適切な時期に売るということができることが魅力かと感じます。
そして、いくら一括課税を避ける信託内給付の定め方をしても、税務署と揉めることも想定します。もっぱら非課税や節税対策としての信託契約書の作成はお勧めしておりません。本来の信託は、遺言では難しい承継の指定や認知症対策や家族の生活の安定のための財産信託です。節税対策は、保険や通常の暦年贈与など、信託以外で対策することをおすすめします。

遺言無効を主張されないための予防策

ほかの相続人に、遺言を主張されてしまったら財産を遺言によって相続することになった相続人としては、そこで調停や訴訟に発展してしまいます。
そういったことを避けるための予防策はないでしょうか。

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こいったトラブルに発展する前の予防策があります。それは遺言書を公正証書遺言で作成することです。
公正証書であることによって以下の効果があります。

(1)遺言が無効になりづらい
(2)遺言書を紛失がない
(3)偽造を防止できる
(4)自分で書かなくて良い
(5)すぐに遺産相続を開始できる

(1)遺言が無効になりづらい
直筆の遺言は様式が法律に従ってなければ無効になります。署名押印がないものは無効です。また夫婦連名や日付を定めていないものも無効です。例えば「8月吉日」といった表記も日付を定めていないとして認められません。また、訂正の仕方も面倒です。直筆の遺言は往々にして遺言書が無効もしくは一部無効になったケースがあります。公正証書遺言ではこのような様式的な無効はありません。
ただし、公証人は遺言能力の有無について正確に判断することはできません。公正証書遺言であっても、遺言能力が否定され、遺言が無効と判断された裁判例は存在しますが、公証人が遺言者に遺言内容の確認をし、遺言内容を理解しているか確認した上で、公正証書が作成されるため、有効性の高いものになります。

(2)遺言書を紛失がない
遺言書の怖い点は紛失です。もしくは隠匿です。いくら法的に有効でも見つからなければ意味がありません。自身に都合の悪いものの場合、破棄しようとする人も珍しくないため、公証役場にて遺言書が保管されているのは大きなメリットとなります。

(3)偽造を防止できる
そもそも、公正証書遺言は公証人が作成します。したがって偽造の心配がありません。もし、自筆証書遺言で偽造が疑われる場合は筆跡などから判断しなくてはいけなくなります。

(4)自分で書かなくて良い
自筆証書遺言は、別紙の財産目録を除き、一言一句すべて自筆でなくてはいけません。一部でも他人が書いた形跡があると無効になります。公正証書遺言は自分で書く手間を省くことができますし、文字を書ける状態でない人が遺言書を作成する有効な手段でもあります。また目が見えない人でも利用できます。

(5)すぐに遺産相続を開始できる
遺言の内容を理解していない者の遺言書を公証人は認証してくれません。公正証書遺言は作成され認証された時点でそれが本人の意思に基づき作成され、法的な有効であることが担保されています。そのため家庭裁判所の検認を受けることなく遺産相続を開始でき、名義替えの手続きも公正証書遺言の場合は、添付書面が簡略化されていることが多く、多くの名義替えをしなければいけない相続人の手続きの負担軽減にもつながります。

以上のように公正証書遺言はメリットがいっぱいあります。デメリットをあえてあげるなら公正証書は公証センターの事前の確認や手続きに日数を要し、認証の費用もかかります。事案や財産の規模によってもかかる費用は異なりますので、一概にはいえませんが、専門家に直筆遺言書の作成を依頼した場合と公正証書遺言での作成を依頼した場合の費用の違いは大きくはなく数万円くらいの違いであることがほとんどの印象に思えますので、個人的には公正証書遺言をお勧めします。

しかし、家族関係も複雑でなく、特異な事情もなく、単純な遺言内容である場合は法的に有効な直筆遺言をしっかり作成し、法務局保管制度などを利用することもいいでしょう。

財産の規模や家族構成や特異な事情等、考慮してどちらがいいか検討する必要があります。

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